日本企業の将来を左右するAIの導入状況は?
AI(人工知能)の機械学習方法は、ディープラーニングを中心として新たなステージに移行するとともに、近年は第三次AIブームとして、医療診断、自動走行、金融、災害予知などさまざまな分野で応用検討が加速しています。
それを裏づけるように、2019年12月23日の米調査会社Tracticaのレポートによると「AIソフトウェアの世界売上高」は、2018年に101億ドルだったものが2025年までに1,260億ドル(約13兆7,000億円)と12倍以上に増加すると予測されています。
しかし、中国を筆頭として確実に進んでいる世界のAI導入状況に対し、日本企業のAI導入は中々進んでいないのが現状です。
そこで、今回は海外企業のAI導入状況、日本企業のAI導入状況と遅れの原因、分野別の導入事例などについてわかり易く解説します。
世界のAI導入状況
ボストンコンサルティングが2018年にアメリカ、中国、日本、ドイツ、フランス、オーストラリア、スイス、を対象に実施した調査によれば、日本企業のAI導入率は「一部置き換え」「パイロット運用」のトータルは39%と調査対象国の中で最も低いものでした。
中でも中国企業のAI導入率はトータルで85%と、欧米諸国と比較しても群を抜いているのがわかります。
同調査の産業別データでは、日本は金融機関(42%)、及びテクノロジー/メディア/通信(60%)の導入率は他国との差が少ないのですが、消費者向け産業(35%)、エネルギー(38%)、ヘルスケア(23%)、産業財(32%)ではまだ遅れが目立っています。
日本のAI導入状況
2019年の総務省の調査によると、「IoT・AI等のシステム・サービス」は従業員が100人以上の企業で「既に導入が14.1%」「導入予定ありが9.8%」と両方を合わせても23.9%に留まっています。この調査データにはIoTも含まれておりAIに限定したものではありませんが、全体の1/4にも満たない数字は日本がAI後進国であることを明確に表しています。
日本企業のAI導入が遅れている理由
ここで総務省の「IoT・AI等のシステム・サービスを導入しない理由」に関する調査データをご紹介します。
2018年から2019年にかけて大きく増加しているのは「導入すべきシステムやサービスがわからない」(46.0%)、次いで「使いこなす人材がいない」(43.7%)で、企業がAI導入に向けて具体的に考え始めた兆しとも考えられます。
また、「AI導入後のビジネスモデル」や「コスト負担」に関するものが依然として高い水準にあるのは、AIをどのように活用したらどれだけの利益が得られるのか、あるいは事業の効率化が図れるのかが見通せないこと、つまりAIを使いこなせる人材の不足が影響しているようです。
企業のAI導入事例
ここからは、調査データではなく具体的なAIの導入事例を見てゆきましょう。全く異なる分野で効果的にAIを活用している事例を3つピックアップしました。
CO2の排出量を30%削減
AI導入に積極的な三井不動産では「三井ショッピングパーク ららぽーと名古屋みなとアクルス」の空調システムにAIを導入して年間30%のCO2排出量削減を見込んでいます。そのポイントとなったのはAI による予測データでした。
AI による館内人数予測を利用した予測連動省エネルギー制御
天気予報やイベント等の各種情報からAIにより館内人数の推移を予測し、来館者が多いと予測される日は、事前に外気を多く導入しピーク時の外気導入量を抑制することにより、外気導入に必要なエネルギーを削減します。
AI によるエネルギー需要予測を利用したエアコンの高効率運転制御
天気予報・外気温湿度・館内人数予測・イベント情報などのビッグデータを基に、翌日のエネルギー需要を予測し、館内エアコンを最適に制御することで効率の高い運転制御を実現します。 上記の他にAIを活用し、
(1)店内のカメラの画像解析により活動量を計測
(2)サーモカメラの画像解析により来館者の服装を推定し、来館者が常に快適となるよう空調制御するなど快適性にも配慮しています。
経験豊富な医者に匹敵する画像解析が可能に
国立がん研究センターと日本電気が共同開発したAI診断支援医療機器ソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」が昨年11月に医療機器として承認されました。
これは、国立がん研究センターが蓄積する10,000を超える早期大腸がん及び前がん病変の内視鏡画像をAIに学習させ内視鏡検索時に画像を解析しリアルタイムでがんを発見するソフトウェアです。
大腸内視鏡検査時に映し出される画像全体をリアルタイムに解析するために、早期大腸がん及び前がん病変の内視鏡画像25万枚の画像一枚一枚に国立がん研究センターのスタッフが所見を付けた上でAIに学習させたとのことです。 肉眼での認識が困難な病変、解剖学的死角、医師の技術格差等により24%のがんが見逃されているという報告もあり、今後のがんの早期発見や予防に期待されています。
農作物の環境分析で収穫量や品質の向上が可能に
アクアソリューション事業を行う株式会社カクイチは、AIモデル開発まで行える日本IBMの統合分析プラットフォーム「Watson Studio」を採用し、農作物の収穫量や品質の向上を可能にしました。
アクアソリューション事業とは、直径1μm以下の気泡を含むウルトラファインバブル水の発生装置を各農家に提供し、農作物の成長促進、収穫増、農薬散布量削減、秀品率の向上を目指すものです。
農作物の育成には散水のタイミングや水圧・流量などの設定が非常に重要で、農園やビニールハウスに取り付けたセンサーから収集した、照度、湿度、気温、土壌の水分、地中温などのデータを収集・蓄積し、AIで時系列の因果関係を分析し散水の制御・最適化を行います。
3つの事例を整理すると、三井不動産は来場者数やエネルギー需要の「予測」、国立がんセンターでは画像の「解析」、カクイチでは散水制御の「最適化」をAIで実現しています。
3者に共通しているのは、AIで何ができるかという受け身の姿勢ではなく、目的を明確にし、AIをどのように活用するかという考え方で行動している点です。
日本企業の将来を左右するAI導入状況は?/まとめ
2019年に発表された政府の「AI戦略2019」でも我が国のAI導入の遅れを認め、その対策として最初に掲げたのは「人口比ベースで、世界で最もAI時代に対応した人材の育成を行い、世界から人材を呼び込む国となること。」でした。
2020年6月に発表した「AI戦略2019」フォローアップではAIに対応できる人材育成のために、小・中・高・大に関するさまざまな教育政策が具体的に追加されています。企業においてもAIに対応できる人材不足は大きな障害となっており、この壁を乗り越えなければAI先進国に仲間入りすることは困難と思われます。
1990年代半ばにピークを迎えた15~65歳の生産年齢人口は年々減少し、労働者不足の問題を解決するにはAIやロボットの活用が不可欠ですが、政府のAI戦略の効果はすぐには期待できないため、各企業の努力が今後のカギを握っているのではないでしょうか。